和歌と俳句

秋元不死男

神父きて涼を指さすの丈

峰雲や生きてひとりの強さ弱さ

が咲き死さへ納得できぬのに

涼風の天守にゐても子を叱る

才色の才の明るき白牡丹

電球が浮いて憚る夏の河

甚平や簡素の文字を戯れ書きに

曝書して心の飢ゑてきたりけり

の声や死に目にあへぬ顔いくつ

滴りの頬杖羅漢盗みたし

老いらくの高き匂ひを椎の花

風嫌ふわれに風吹く蟻地獄

村人に微笑佛ありほととぎす

這はすいつか死ぬ手の裏表

立つ虹の音をにぎりてゐたりけり

流木の物忘れして涼しさよ

酒好きに酒の佳句なしどぜう鍋

遅筆わが手に空蝉の誇らしげ

滴りに耳のおどろく住居跡

眼中に睡蓮の趺坐匂ふかな

うどんげや棺に別れの硝子窓

梅雨つづく起てる薬は無いものか

ゆらゆらと亡母われ呼ぶ罌粟のかげ