神父きて涼を指さす滝の丈
峰雲や生きてひとりの強さ弱さ
額が咲き死さへ納得できぬのに
涼風の天守にゐても子を叱る
才色の才の明るき白牡丹
電球が浮いて憚る夏の河
甚平や簡素の文字を戯れ書きに
曝書して心の飢ゑてきたりけり
蚊の声や死に目にあへぬ顔いくつ
滴りの頬杖羅漢盗みたし
老いらくの高き匂ひを椎の花
風嫌ふわれに風吹く蟻地獄
村人に微笑佛ありほととぎす
蟻這はすいつか死ぬ手の裏表
立つ虹の音をにぎりてゐたりけり
流木の物忘れして涼しさよ
酒好きに酒の佳句なしどぜう鍋
遅筆わが手に空蝉の誇らしげ
滴りに耳のおどろく住居跡
眼中に睡蓮の趺坐匂ふかな
うどんげや棺に別れの硝子窓
梅雨つづく起てる薬は無いものか
ゆらゆらと亡母われ呼ぶ罌粟のかげ