和歌と俳句

秋元不死男

癪に効く湯へ声おとす高嶺

蝉の日や研れて匂ふ鎌の反り

ででむしやダムに長居の袋雲

暑き日のぴりぴりわたる人造湖

一発のかみなり湖に何か銹ぶ

つつましき青田が北に人造湖

合歓咲いて三鬼きさうな関所跡

時の日を歌書へ爪立ち古書漁る

虚子と二字窟の墓に緑差す

涼潔し竹箒侍す虚子の墓

水飲みて振り腰涼し家鴨の子

白檀の扇ぞ撓ふ餓鬼忌かな

気落ちして足拭きをるやくる

冷麦に朱の一閃や姉遠し

灯蛾死して羽おく一夜漬の稿

峰雲や海豚引き抜く餌の力

ねんごろに牛が尾を振る水すまし

人の背はみなさみしいね西日負ふ

アカシヤ散る養老院の犬育ち

塩舐めて手足さみしや柚子の花

神童の持つ指白め鳴く