後撰集よみ人しらず
常もなき夏の草葉におくつゆを命とたのむ蝉のはかなさ
俊頼
石走る滝のとよみにうちそへて木ごとにせみのこゑきこゆなり
俊成
抜け殻は木の本ごとに脱ぎすてて知らずがほなる蝉のこゑこゑ
寂蓮
夏深き杜の梢にかねてより秋をかなしむ蝉の声かな
有家
雲井までひゞきやすらん夏山の峰より高き蝉の諸声
定家
あらしふく梢はるかに鳴く蝉の秋をちかしと空につぐなる
定家
住のえの松のうれ吹くなみ風にこのごろせみの声ぞうちそふ
実朝
夏山になくなるせみのこがくれて秋ちかしとやこゑもをしまぬ
撞鐘もひびくやうなり蝉の声 芭蕉
頓て死ぬけしきは見えず蝉の声 芭蕉
掛橋やあぶなげもなし蝉の声 許六
かざしてや扇にへだつ蝉の声 支考
杉脂の手に煩はし蝉の声 野坡
松風もをのがのにして蝉の声 千代女
半日の閑を榎やせみの声 蕪村
大仏のあなた宮様せみの声 蕪村
鳥稀に水また遠しせみの声 蕪村
蝉鳴や行者の過る午の刻 蕪村
蝉啼くや僧正坊のゆあみ時 蕪村
さまかへて御庭拝むや蝉の声 召波
蝉鳴や昼寝しばらく旨かつし 召波
初蝉や初瀬の雲のたえ間より 暁台
薄雲の山路をすますせみの声 暁台
蝉啼てくるしや蓑のむらかはき 白雄
降晴て杉の香高し蝉の声 白雄
たつ蝉の声引放すはづみかな 太祇
かげろひし雲又去て蝉の声 几董
今しがた此世に出し蝉の鳴 一茶
むく犬や蝉鳴く方へ口を明 一茶
蝉なくや我家も石になるやうに 一茶
蝉鳴や物喰ふ馬の頬べたに 一茶
小坊主や袂のなかの蝉の声 一茶
蝉なくやつくづく赤い風車 一茶