和歌と俳句

藤原俊成

春とても花のいろにも染めざりし賤の衣も更へむとやする

卯の花の垣根を雪にまがへてや急ぎででつる小野のすみやき

いづかたと聞きだにわかずほととぎす雨雲あくる夜半のひとこゑ

みくり這ふ入江に生ふるあやめ草ひくひとなしに根や流るらむ

かりにだに来る人もなき柴の戸はただ植ゑこめよ室のはやわせ

五月雨に思はぬ浦に舟とめて波のうきねに袖ぬらしつる

たたくなりこれは水鶏の音ならむ宵にぞ人は訪はばとはまし

おほあらきの森のしたくさ朽ちぬらし浮田の原にとびかふ

鵜川には五月の闇もなかりけり下ればくだす舟の篝火

夏ながら氷をりける奥山はこの世のほかの心地こそすれ

風もらす真木のうつほの苔筵いかに山伏ふしよかるらむ

濁りなく池のこころや澄みぬらむ今ぞはちすのあらはれにける

抜け殻は木の本ごとに脱ぎすてて知らずがほなるのこゑこゑ

川の瀬に麻のおほぬさうちなびくけしきや神の心なるらむ