春とても花のいろにも染めざりし賤の衣も更へむとやする
卯の花の垣根を雪にまがへてや急ぎででつる小野のすみやき
いづかたと聞きだにわかずほととぎす雨雲あくる夜半のひとこゑ
みくり這ふ入江に生ふるあやめ草ひくひとなしに根や流るらむ
かりにだに来る人もなき柴の戸はただ植ゑこめよ室のはやわせ
五月雨に思はぬ浦に舟とめて波のうきねに袖ぬらしつる
たたくなりこれは水鶏の音ならむ宵にぞ人は訪はばとはまし
おほあらきの森のしたくさ朽ちぬらし浮田の原に蛍とびかふ
鵜川には五月の闇もなかりけり下ればくだす舟の篝火
夏ながら氷をりける奥山はこの世のほかの心地こそすれ
風もらす真木のうつほの苔筵いかに山伏ふしよかるらむ
濁りなく池のこころや澄みぬらむ今ぞはちすのあらはれにける
抜け殻は木の本ごとに脱ぎすてて知らずがほなる蝉のこゑこゑ
川の瀬に麻のおほぬさうちなびくけしきや神の心なるらむ