今日よりは柞の森も神無月しぐればかりや知らむとすらむ
木曽路には途絶えしたりといはせばやさても紅葉を人の踏まぬと
ふるさとはこぐさがもとも折れ伏して枯葉に霜の置かぬ間もなし
床狭き埴生のこやの板間より枕のうへに霰たばしる
降る雪に梢は一つ色にして二もとたてる武隈の松
ともすれば汐みつ濱の蘆の根の沈みてからくおいぬべきかな
やまかげや谷のしたみづ氷柱ゐて岩うつ波も今は音せず
筏士もみなれにけらし水馴れ棹さすにも鴛のさわぎけもなし
氷魚のよるやそうぢかはの川波に聲うちそふる山めぐりかな
月夜よみ庭火のまへの笛の音を雲のよそにもききわたるかな
かりくらし聲もしられずはし鷹のうちふる鈴の音ばかりして
雲間よりかすかにけぶり立田山みねのあなたに炭や焼くらむ
埋火を見るよりほかの友ぞなき柴のあみ戸は風のまかせて
沖つ波そこと教へよ暮れはつる年のとまりに我もとまらむ
歎きつつ多くの年はすぎまより今こそもらせ山の端の月
たまづさは我がむすびめに変はらねどもしやとうらを見ぬたびぞなき
鶯のさへづるこゑを頼めども猶とけがたき山川の水
いかにせむ逢はぬを急ぐつらからぬけしきをしらぬ心とやみむ
いかならむ言の葉にてか逢ひみむとうらよりうらにとはぬ日ぞなき
よしさらば妬さに名をや立ててまし偽りにても頼めざりきや
年ふれば頼めといひし人ごとに命をかけていきの松原
あかなくに置きつるだにもあるものを行方もしらぬ道しばの露
しのぶとも我は色にや出でなまし數ならぬ身を思ひ知らずば