小林一茶
背戸の不二青田の風の吹過る
すき腹に風の吹けり雲の峰
せみ啼や梨にかぶせる紙袋
舟引の足にからまる蛍哉
板塀に鼻のつかへる凉哉
昼皃の秣の員に刈れけり
酒冷すちよろちよろ川の槿哉
時鳥火宅の人を笑らん
かんこ鳥しなのの桜咲にけり
今しがた此世に出し 蝉の鳴
蝿打てけふも聞也山の鐘
曙の空色衣かへにけり
袷きる度にとしよると思哉
江戸じまぬきのふしたはし更衣
手の皺が歩み悪いか初蛍
時鳥夜は葎もうつくしき
夕皃の花めで給へ後架神
蝿打に敲かれ給ふ仏哉
短夜に竹の風癖直りけり
貌ぬらすひたひた水や青芒
春日野の鹿にかがるる袷かな
うの花や蛙葬る明り先
菖蒲ふけ浅間の烟しづか也
夕暮や蛍にしめる薄畳
蚊声やほのぼの明し浅間山