汐濱を反故にして飛ぶ鵆かな
年の暮人に物遣る蔵もがな
寒き夜や我身をわれが不寝番
ひつぢ田や青みにうつる薄氷
外堀の割るる音あり冬の月
夕風や社の氷柱灯のうつる
榾の火や糸取窓の影ぼうし
外は雪内は煤ふる栖かな
関処より吹戻さるる寒さ哉
遠方や枯野の小家の灯の見ゆる
思ふ人の側へ割込む巨燵哉
せせなぎや氷を走る炊ぎ水
義仲寺へいそぎ候はつしぐれ
早立のかぶせてくれしふとん哉
炉のはたやよべの笑ひがいとまごひ
人並に正月を待つ灯影かな
かれ芒かさりかさりと夜明たり
我好て我する旅の寒哉
追れ行人のうしろや雪明り
北しぐれ馬も故郷へ向て嘶く
次の間に行灯とられしこたつ哉
三度くふ旅もつたいな時雨雲
ざぶりざぶりざぶり雨ふるかれの哉
掌に酒飯けぶる今朝の霜