今迄は踏れて居たに花野かな
をり姫に推参したり夜這星
吹降や家陰たよりて虫の声
船頭よ小便無用浪の月
負角力其子の親も見て居るか
御射山や一日に出来し神の里
虫鳴くや表町は夜も人通り
秋の夜や旅の男の針仕事
夫をば寐せて夫のきぬた哉
天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ
人並に畳の上の月み哉
夕露やいつもの所に灯のみゆる
日ぐらしや我影法師のあみだ笠
湖や小一里よ所の花火とぶ
小便の身ぶるひ笑へきりぎりす
ばらばらと脛に飛びつく螽哉
花木槿里留主がちに見ゆる哉
夕虹に日のけばけばし花木槿
朝ばかり日のとどく渓のむくげ哉
夕紅葉谷残虹の消かかる
古郷に似たる山をかぞへて月見哉
ぬつぽりと月見顔なるかがし哉
つくづくと鴫我を見る夕べ哉
きりぎりす人したひよる火影哉
夕日影町一ぱいのとんぼ哉