和歌と俳句

うすもの 羅

晶子
うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風の青き

晶子
藻の花のしろきを摘むと山みづに文がら濡ぢぬうすものの袖

晶子
ほとゝぎす玉をまゐらす瑠璃盤に羅のおん袖触れにしものか

晶子
水にさく花のやうなるうすものに白き帯する浪華の子かな

晶子
うすものや六根きよめまつらむとしら蓮風す朝舟人に

晶子
船べりの波と御袖のうすものの風とかよひぬ夕川の人

晶子
うすものを着るとき君はしら花の一重の罌粟と云ひ給ふかな

晶子
あざやかに漣うごくしののめの水のやうなるうすものを着ぬ

揚州の夢ばかりなるうすものや 龍之介

羅にほそぼそと身をつつみたる 素十

肘曲げし肌羅に動きけり 青畝

翩飜と羅を解く月の前 草城

うすものの裾や吹かれて埒もなし 草城

うすものや乳のしみ出し二ところ 草城

うすものに赤き湯文字を巻く勿れ 草城

羅に人肌見えて尊とけれ 普羅

うすものの重り合ひて濃むらさき 青邨

晶子
松戸なる人の贈りしひなげしを置けばいみじきうすものの膝

晶子
なほ覚めぬ夢見給ふと見ゆるなり藤むらさきのうすものに由り

晶子
うすものや何処の王のかたはらへ行くや芝居の廊のいく人

羅を裁つや乱るる窓の黍 久女

羅の折目たしかに着たりけり 草城

羅をゆるやかに着て崩れざる たかし