和歌と俳句

水原秋櫻子

青き鴨波翔けめぐり初日いづ

初不二を枯草山の肩に見つ

廃運河何に波立つの中

雪後の日濡れて運河は澱みたり

室咲や詩書積む中に花ひとつ

地震すぎて夜空に躍る冬の梅

黄塵の野面の隅に雪の富士

入日雲魚にかも似てをはる

野の風を濤と聞く日の玉椿

楢山の窪に池澄む芽立前

の来てあけぼのの庭に胸赤し

夜櫻や高尾を照す月くらき

軽雷のあとの遅日をもてあます

峠田は蝌蚪にかがよふ漆の芽

牡丹咲く風が山路を吹きのぼる

ひとつ雲影を移さずリラ咲けり

古き詩は捨つべきかリラ咲きにけり

午後の日に暈描かむと雨蛙

廃橋を野いばら白く咲き隠す

思ひ出の褪せし日照らす桐の花

苗代が日の出を待てる靄厚し

梅雨の月さし入りがたく谷深し

咲いて林のはづれ撓みたり

高天も嘆きたまへり雷とゞろき

多摩人は雷後すがしき田を植うる