和歌と俳句

水原秋櫻子

石鹸玉幾畝ゆけり麦青む

初午や燈明ゆらぐ鰈の眼

鶴見川涸れたり低き梅咲けり

紅梅に青き空垂れなほ廃墟

雛の日や桑の古雪かたくなに

残雪の丘に照りいづ十三夜

大菩薩三日をかくろふ雪解靄

種蒔いて明日さへ知らず遠きをや

草萌えて煤煙河に吹き下ろす

雷雲の裾にしのぼる春の月

燕飛ぶ紺青の背に港見ゆ

坂来れば辻に蒲公英垣に海

東京湾疾風過ぎをり復活祭

僧院は牡丹の客に苔厚し

広縁を拭きて下照る牡丹あり

畑さへや荒れゆくまゝに白牡丹

花みだれ暮春却て人訪はず

雲水の草鞋すがしと牡丹咲く

雲水の牡丹まぶしむ笠のうち

雲ふかき紫雲英田敷けり幾重にも

うきくさや白壁厚き家構

月見草煤煙朝の海に降る

野いばらに船の煤煙来てくらし

田掻牛観世音寺の前を曳く

新緑の映るにあらず鐘蒼し