和歌と俳句

水原秋櫻子

夜の大雨やがて春暁の雨となる

野の虹と春田の虹と空に合ふ

湖の霧馬酔木咲く野へあふれいづ

椿咲きぬきのふにつづく風吹けど

紅梅に思はぬ雪の今朝飛べり

大風を憂しと籠ればさかり

麦生より鶫があふぐ梅咲けり

うぐひすや美しき菓子が膝の前

わがために近江の諸子魚とどきゐる

中庭に向ふ戸さゝず春の雨

戸ささねば春暁見ゆる庭の石

馬酔木咲き桂の宮は雨けぶる

羊歯萌えて寂びにし宮に月日過ぐ

苔ふかく幾世落ちつぐ落椿

菖蒲萌え流れの手水ながれゐる

簷の下春水碧く淵なせる

おもはざる落花舞ひゆく淵の上

廊つたふ汀まばゆき春の水

花冷や剥落しるき襖の絵

池へだて鶯きこゆ炉のほとり

や雲押し移る雲母越

雲の中に立ち濡れつつぞ春惜む

落椿蘂全くて苔厚し

春蘭や雲わけのぼる上の宮

馬酔木咲き雲の匂へる日の出前