和歌と俳句

水原秋櫻子

春雲の高きに松が支へあふ

校倉を見せじと馬酔木群れて萌ゆ

築土草春闌けたれば咲く薊

築土草瑞の若萩一枝伸ぶ

森の奥に梅雨真青なり平林寺

崖の下家とも見えず蚊火あぐ

蝉吟やひたすらねむる食中り

鶴見川くねれる畑の朝ぐもり

牛浸けて川幅なせり鶴見川

夏霞む灘よりひゞき漁船来る

日ざかりの氷塊に立つ魚の鰭

日ざかりの潮もてあらふ市のあと

林檎のうへに七夕の不二淡し

海月群れ七夕の潮なほ暮れず

カンナ咲き七夕の不二に雲騰る

きりぎりすいぶかりきくに波幾重

きりぎりす見るは巌のみ又波のみ

巌群は夏日に巌の影生まず

夏千鳥はしり巌群はてもなし

七夕竹わづかの砂に立てる

紫陽花や磯をふたつにわかつ崖

ひぐらしや早潮にとぶ魚あまた

荒瀬波立てゝ七夕の瀬はしる

早潮のさせばひぐらしの島ひたる