霜月も末の雨浸む菊葎
喉いたき朝のめざめに茶が咲けり
山垣の奥処ひかるは雪の嶺
葡萄枯れすがしや一葉のこるなき
茨の実泉に映りかつこぼる
遠天に雪嶺尾根をつらねたり
雪の尾根白根北岳となりて尖る
冬山の線が落合ふ杉暗し
畦たどる薄氷照ればその方へ
渦鳴りて冬潮巌をめぐり去る
磯釣の巌は浪あらふ石蕗の花
磯釣が魚負ひのぼる枯芒
水仙や波大島へこぞり飛ぶ
雪雲の暮るるに筆を洗ひをり
野の雪の心にしみつ筆洗ふ
遺るものを何をか書きし年暮るる
艶歌師のうしろ真青に鰤の海
寒禽の葎にあそび人行かず
梅林へ逆落しゆき禽隠る
雪きびしセザンヌ老残の記を読めり
秩父人来て残雪に蘭を植う
春蘭ややがて日のさす雨こまか
春蘭の林の雨に日も濡れつ
わが孫の村嬢と群れて入学す