和歌と俳句

きりぎりす はたおり

好忠
女郎花にほへる宿し見るなべにはた織る蟲ぞ夜半に鳴くなる

慈円
はたおりの思ひもかけぬ床のうへに飛びておとするよひのさむしろ

はたをりや娵の宵寝を謗る時 也有

通夜僧の経の絶間やきりぎりす 漱石

掛茶屋の灰はつめたしきりぎりす 子規

捨笠をうてばだまるやきりぎりす 子規

下駄箱の奥になきけりきりぎりす 子規

汐風にすがれて鳴くやきりぎりす 子規

暁や厨子を飛び出るきりぎりす 子規

夜をこめて麦つく音やきりぎりす 子規

すのこふめばはたと鳴きやむきりぎりす 虚子

暗室や心得たりときりぎりす 漱石

左千夫
うからやから皆にがしやりて独居る水づく庵に鳴くきりぎりす

きりぎりすの昔を忍び帰るべし 漱石

晶子
きりぎりす葛の葉つづく草どなり笛ふく家と琴ひく家と

晶子
蜂蜜の青める玻璃のうつはより初秋きたりきりぎりす鳴く

晶子
八月や髪干す人に何ごとかおほく語れるきりぎりすかな

晶子
鎌の刃のしろく光ればきりぎりす茅萱を去りて蓬生に啼く

松は動かず根草の奥のきりぎりすかな 山頭火

細葉はさんであと足高しきりぎりす 泊雲

牧水
はたはたと茅萱が原の日あたりに機織虫は音たててとぶ

きりぎりす夜の遠山となりゆくや 亞浪

はたをりの子を負ひたればあはれなり 青邨

煎薬の煙をいとへきりぎりす 龍之介

風過ぎて鳴き止むもありきりぎりす 花蓑

古籠に飼はれて青ききりぎりす 草城

更闌けて鳴かぬ青さやきりぎりす 草城

寂しさやしらじら明けのきりぎりす 草城

波の音けふ高いけれどきりぎりす 秋櫻子

きりぎりす鳴かねば青さまさりける 草城

おさへたる手重なりぬきりぎりす 虚子

更けてさまよへばなくよきりぎりす 山頭火

きりぎりす腹の底より真青なる 淡路女

いつまでも食ひさしの餌ときりぎりす 青畝

きりぎりす萎びきつたる草被たり 青畝

きりぎりす時を刻みて限りなし 草田男

詮じあふ少年の智慧きりぎりす 草田男

泥濘におどろが影やきりぎりす 不器男

きりぎりすながき白昼啼き翳る 誓子

きりぎりす光は陰と地をわかつ 誓子

機織虫の鳴り響きつつ飛びにけり 虚子

灯のかげの萩を攀ぢをりきりぎりす 素十

わが胸の骨息づくやきりぎりす 波郷