ひらかるゝ窓のひかりし良夜かな
たづさふる手のあたゝかき無月かな
わが淹れてわがすゝる茶や後の月
見とほしの道のむなしき十三夜
秋扇やあふぎ古りにし故人の句
女房のまをす寝言や九月蚊帳
早稲酒やひとつおぼえのサノサ節
すきはらの舌にするどき新酒かな
利酒の真顔の眉の濃かりけり
古池に三宝院の障子かな
蘆刈のくるぶし白く歩きけり
蘆刈のうろつく鎌の光りけり
去来忌や旦暮に存す嵐山
鹿と居て鹿の蠅来る日和かな
かりがねや一人按摩のひとりもの
しづけさのきはまれば鳴く法師蝉
ひぐらしやあちこち灯る山がゝり
ひぐらしや僧にも逢はず寺の庭
きりぎりす鳴かねば青さまさりける
ふけて鳴く馬追を飼ふ隣かな
赤蜻蛉まなかひに来て浮び澄む