冷ゆる雲蓬々として峰わたり
高嶺雲抽き白瀬青淵峡の底に
秋の空とほくなりけり峡の瀬に
草紅葉バスを待つ客たもとほる
そこはかと苔のにほひや初紅葉
かなめの木末葉はぢらひそめにけり
ほろほろと燃えしぶる火や秋の暮
水の音さぶしかりけり後の月
後の月水を照して高くなる
戸漏灯にたちまさりつつ後の月
後の月つまさき冷えをおぼえけり
敷いてある宵寝の床や菊の花
月の夜を重ねて露のにほひけり
獨り居の膝を崩さずつゆしぐれ
睡らえぬおもひは露にまみれけり
露白くあらはれて明けはなれける
朽廂瑞の芭蕉にへりくだる
羊羹や金象嵌の栗ふたつ
十六夜の月が出にけり照らさるる
白菊に順へる葉のみどりかな
街の樹の枯るるけはひや後の月