和歌と俳句

日野草城

25 26 27 28 29 30 31 32 33 34

月の波なめらかに高まりて潰ゆ

月を視しひとんまなざしわれに来ぬ

月照りて描きし眉もさやにみゆ

月冴えぬ熱く淹れたる茶のかをり

夜長し妻の疑惑を釈かず措く

秋の夜の妻に怒りて子を憚る

秋深し寝起わらはぬ子を笑はす

焼き立ての麺麭をかかへて秋ふかき

秋深しトーストにバタを厚く塗る

観月の逍遥子ろと飴を嘗め

月光に酒の香うごくまとゐあり

観月の飲食月の光に漏れ

月の芝冷酒の罎を置き傾げ

をなごらはあまきもの食み月の芝

月は常に映りバスは映り去る

霧を払ふ風白菊に吹きあたる

日の光白玉菊にわが肌に

白菊の今は照りはゆる日光充ち

黝し日の白菊の置く影は

菊皓とわが憂鬱に照りとほる