和歌と俳句

日野草城

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こほろぎのしまらく息み秒の音

わがゆまる音のさやかに深夜の月

うつつなのわがおもひごと夢となりぬ

朝顔の花みづみづし寡婦となる

一夜にて妻、一旦にして寡婦に

亡きひとの子を胎内に眉わかき

亡きひとの服吊られ亡きひとの雲脂

亡きひとのペンを執り上げぬ書くことなし

蒼き寡婦生活の濤を見わたしぬ

蒼き寡婦つめたき汗をわきのした

蒼き寡婦まつたくひとりなり坐る

秋の水浅く明らかに迅く流る

秋の苑広大なり人語片隅に

晩秋の斜日喬木の老幹に

洪水荒れを嘆かへど言はず秋苑に

遊歩杖あづかられ二科の階上へ

二科を観る秋の外套は重からず

二科の窓いてふ黄葉ゆふばれに

二科を出てわが遊歩杖手に還る