こほろぎのしまらく息み秒の音
わがゆまる音のさやかに深夜の月
うつつなのわがおもひごと夢となりぬ
朝顔の花みづみづし寡婦となる
一夜にて妻、一旦にして寡婦に
亡きひとの子を胎内に眉わかき
亡きひとの服吊られ亡きひとの雲脂
亡きひとのペンを執り上げぬ書くことなし
蒼き寡婦生活の濤を見わたしぬ
蒼き寡婦つめたき汗をわきのした
蒼き寡婦まつたくひとりなり坐る
秋の水浅く明らかに迅く流る
秋の苑広大なり人語片隅に
晩秋の斜日喬木の老幹に
洪水荒れを嘆かへど言はず秋苑に
遊歩杖あづかられ二科の階上へ
二科を観る秋の外套は重からず
二科の窓いてふ黄葉ゆふばれに
二科を出てわが遊歩杖手に還る