日野草城
秋暑し五指を披きて書を支ふ
八月の気温上騰すわが無為に
けふの月ことしは見るや下駄を穿き
中秋の月に歩むや四五十歩
夜に入りて微熱しりぞくけふの月
望月の照らしに照らす道の上
望の月わがしはぶきも照らさるる
初鵙のこゑ木犀の香にひびく
老妻の剥きし柿食ふ老夫かな
曇り日の藷を食ひまた藷を食ふ
雲を見て心ひらくる秋日和
木犀の香の浅からぬ小雨かな
雨の音たかぶるときもちちろ虫
鏡中に歯をみがくわれ鵙の晴
菊の香や思にからむセレナアド
菊夫人菊に薫染したまへり
霧の夜の秋思すなはち恋ごころ
肌寒やうつうつとして寡婦の恋
ひざまくら寐待の月は寐て待たむ
こほろぎや底あたたかき膝枕