日野草城
こほろぎや老眼鏡を妻もちふ
新涼やさらりと乾く足の裏
仰臥して仰臥漫録の著者を弔ふ
藷あまし生計もひとのなさけにて
菊の香や裏をつけたるひとへもの
気の弱りひとには告げず秋日和
さはやかや遠野に犬が吠ゆるさへ
秋深し客のなき日のつもりつつ
玉菊や衰ふること忘れしや
ただ生きてゐるといふだけ秋日和
かねたたき高温多湿の日が暮れて
恋愛詩誦し葡萄の珠ふくむ
なにがなしたのしきこころ九月来ぬ
杖ついて畳を歩く鵙日和
すらすらと昇りて望の月ぞ照る
十六夜やいまだしめりて洗ひ髪
ラヂオ体操の曲にて指を屈伸す
財宝のごとし大柿十七顆
>
コスモスや妻がやさしく子がやさしく