日野草城
洗はれて紅奕々とさつまいも
洗はれし藷の紅白膚を触れ
紅藷は逸り白藷しづかなる
きこゆるや秋晴妻のひとりごと
秋日和近隣のこゑつつぬけに
秋の昼パイプオルガン綿々と
雨降りて秋深きかな手を眺む
露しぐれわれ老いわが句古びゆく
露けさやをさなきものの縷々の言
検温や篠の白露こぼるる音
手鏡にいつもひげづら秋進む
衰へを人に言はるる秋の宵
わが胸ゆ出でし紅血秋風に
白露や紙に血ぬりしはけさのこと
秋暑き猫の横顔たけだけし
木犀の香しづかなる夜寒かな
誰が笛かおぼつかなさよ秋の暮
木犀のゆふべのかをり琴ひびく
わがいのちいよよさやけし露日和
闇にして地の刻移るちちろ虫