和歌と俳句

老松の己の露を浴びて濡れ 虚子

老松に露の命の人往来 虚子

月のごと大きな露の玉一つ 虚子

白露や月の金環かく細り 茅舎

白露の犇めく如法闇夜かな たかし

露のチヤペル紺青の葱珠天に澄み 青邨

ささやかなステンドグラス露の寺 青邨

露の鐘夕の祷告げて鳴る 青邨

ひざまづき燭かくれたり露の堂 青邨

うつくしき人のうつしゑ露の墓 青邨

書を積んでいにしへにぬるゝ露の宿 青邨

亀ケ城白露の径をわけのぼる 秋櫻子

露の黍七夕竹も露ふかし 秋櫻子

棘の露ひとのまなこの移り行く 耕衣

大露の露の響ける中に立つ 茅舎

白露やうしろむきなる月見草 茅舎

眼を射しは遠くの露の玉一つ 茅舎

日の光露玲瓏のかげもさす 誓子

山中に送りし露の日も積る 誓子

書きてつかれいちめんの夜露見て睡る 林火

露の葉と露の葉と相触れてをり 茅舎

露の盾芭蕉広葉に隠れ栖む 茅舎

大文字真向に開け露の縁 友二

駅へ送る相思旅ゆく露の夜を 友二

露のやど仏のともしかんがりと 虚子

畔豆の枯葉もみえず露菩薩 蛇笏

はつ露や白靴そむる道辺草 蛇笏

目醒むるや軍歌貫く露万顆 欣一

老の耳露ちる音を聞き澄ます 虚子

炊煙の濁らしそめぬ露の空 花蓑

しらつゆやお花畠に嶽の尖 蛇笏

山桐の葉を真平らにつゆしぐれ 蛇笏

亡き父のセルをわが着て日々の露 誓子

石蹴れば露がおどろく朝かな 楸邨

露のなか蓼も野菊も日の出まへ 素逝

白露やはや畏みて三宅坂 波郷

露時雨猿蓑遠きおもひかな 波郷

日出でて葉末の露の皆動く 虚子

満山の白露に居る思ひなり 風生

漂へるごとくに露の捨箒 風生

薪を割る音木深しや露のやど たかし

露の宿槙垣ふかく灯しぬ 風生

露咽ぶ朝刊のこの新しさ 誓子