和歌と俳句

日野草城

25 26 27 28 29 30 31 32 33 34

起きてゐる灯火くらし虫の宿

そぞろ触れて露のするどさ夜の萩は

夜長の灯雪をあざむく天井に

身のまはり更けてきこゆる秋の水

灯の下にゐて月かげをおぼえけり

灯を消せば青い月夜がのぞく窓

つきかげのひさしき肌のさむさかな

曼珠沙華南河内の明るさよ

みづうみの水のつめたき花野かな

ふるさとの野山が濡るる秋の雨

咲けり鉄と石との厦の庭

肌寒やピアノの歯並ましろにぞ

秋の灯のほつりほつりとの端

秋雨や真昼の花のほたるぐさ

髪油にほふ雨月の傘の内

京都市にさはりてなびく薄の穂

霧断れて清滝川が見ゆるとき

疲れぬと草の錦に白き手を

国原や到るところに菊日和

後の月沼にうつりて更けにけり