日野草城
起きてゐる灯火くらし虫の宿
そぞろ触れて露のするどさ夜の萩は
夜長の灯雪をあざむく天井に
身のまはり更けてきこゆる秋の水
灯の下にゐて月かげをおぼえけり
灯を消せば青い月夜がのぞく窓
つきかげのひさしき肌のさむさかな
曼珠沙華南河内の明るさよ
みづうみの水のつめたき花野かな
ふるさとの野山が濡るる秋の雨
菊咲けり鉄と石との厦の庭
肌寒やピアノの歯並ましろにぞ
秋の灯のほつりほつりと京の端
秋雨や真昼の花のほたるぐさ
髪油にほふ雨月の傘の内
京都市にさはりてなびく薄の穂
霧断れて清滝川が見ゆるとき
疲れぬと草の錦に白き手を
国原や到るところに菊日和
後の月沼にうつりて更けにけり