秋立ちぬしらたまのべるきよらかに
日かげりし水の憂愁雲の秋
丘の径照りぬ曇りぬ法師蝉
木犀の咲き現れてこぼれけり
薔薇老いぬ茎に添ふ陽のあたたかに
秋晴の喬木の影を被て憩ふ
秋の夜の薄闇に逢うて異邦人
秋の夜の海のにほへる道濶き
居残のみなうつむけり秋の灯に
うるはしき横顔事務に傾ける
そろばんの珠の黒珠に指若き
秋の夜のタイプライター鏘々と
秋の夜の熱き饂飩の渦白き
掌中の手のやはらかき夜霧かな
霧の中去るやひとりの靴の音
霧罩めぬ後影なほ在るごとき