和歌と俳句

日野草城

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秋立ちぬしらたまのべるきよらかに

日かげりし水の憂愁雲の秋

丘の径照りぬ曇りぬ法師蝉

木犀の咲き現れてこぼれけり

薔薇老いぬ茎に添ふ陽のあたたかに

秋晴の喬木の影を被て憩ふ

秋の夜の薄闇に逢うて異邦人

秋の夜の海のにほへる道濶き

居残のみなうつむけり秋の灯に

うるはしき横顔事務に傾ける

そろばんの珠の黒珠に指若き

秋の夜のタイプライター鏘々と

秋の夜の熱き饂飩の渦白き

掌中の手のやはらかき夜霧かな

霧の中去るやひとりの靴の音

霧罩めぬ後影なほ在るごとき