皿のごとき港見下ろす冬木の坂
雪に洋傘突きたて夜更けバスを待つ
街それて傘のみぞれの重くなる
炬燵居の背中に夕日俄かなり
鼻白む冬木見てゐて暮れしとき
冬の夜や頭にありありと深海魚
父の忌の雪降りつもる炭俵
書庫守のシェパード抱く枯芝生
日向ぼことなりにもまた群が出来ぬ
冬晴れやつぎの標にもバスを待つ
かげさせば寒鮒釣の振返り
冬雲獲て蘆ことごとく立ち騒ぐ
しづかにも年輪加ふ冬木かな
火事の雲たたずむ人にひろごりぬ
芭蕉忌のしづかに移り露更くる
芭蕉忌のいささかの雲月うすれ
昼の霜そくそくと人影痩する
夜あたたか濡れいろ見する炭の艶
炭熾る匂ひ流れて日の出かな
冬の夜やほのぼのとして林檎酒
年暮るる火を落しをる汽鑵工
波の痕寒の夕日をためて黄に
冬日淡くまだ空谷に届かずて
喪の家に冬海月をあげにけり
寒林にさへぎられたる町の屋根