寒林の一樹といへど重ならず
乙女さび子は母寄りに雪夜坐す
絵を溢るる赤を寒夜のよろこびに
白菜を割る劇浪を前にして
波とがり川へのぼれり年の暮
鳥も稀の冬の泉の青水輪
いくさなきをねがひつかへす夜の餅
外燈に氷湖をわたりきし風音
暮るるよりさきにともれり枯木の町
火鉢の手皆かなしみて来し手なり
外套やまだめぐりゐる通夜の酒
喪の寒さわかち三河へ友帰る
塩手掴み冬の入日を妻見居り
大寒をただおろおろと母すごす
こぼれ水冬の入日の方へ赤し
結氷湖懐中燈の輪がすすむ
母長寿たれ家裾に冬の草
冬紅葉師の忌に逢ふてまた別る
冬あたたか五十のわれに母在れば
留守居士の頭を撫で冬日道戻る
佛めく母におどろく寒燈下
冬空の鋼色なす切通
炭を割る音夕凍みのむらさきに
息やはらかく降る雪にお晩です
雪やまず湯を溢れさす若き肩