生きてとびし蜻蛉の透翅書にはさむ
鵙叫ぶ老呆けて生きたくはなし
翅触るまで雁のこゑかたまれり
蟷螂の眼の中までも枯れ尽くす
わが病知らず蟷螂吾を攀づ
樹を攀ぢし蟷螂翅でとび降りる
沖に立つ寒煙船の影はなし
冬の浪従へるみな冬の浪
舟漕いで海の寒さの中を行く
炭を挽く堅きところを挽いて過ぎ
風邪の妻起きて厨に匙落す
風邪癒えぬ身の盛装を凝らしたり
凩にいづこかの野の声聞ゆ
雪嶺を何時発ちて来し疾風ならむ
降る雪の空つづきにて海も降る
みな雪の沿岸太平洋に対ふ
子は背にて父に倚る父暖し
かげろふ濱愛することを隠すなし
巣を奪られたる親雀天翔くる
物書ける吾を信じて巣の雀
みだれつつ藁は雀の巣を守る
菫濃し汀線を距るいくばくぞ
危うきとき蟹は土管に入れば足る
パンツ脱ぐ遠き少年泳ぐのか