和歌と俳句

山口誓子

又遭ひしともしばし闘へり

セルの身は松の花粉によごれやすし

梅雨の妻いまにして女の一生読む

天井に梅雨漏り吾は病みこらへ

蟹がゐて油いための音たけなは

子が泳ぐかくもさみしき浦選み

平泳のをとめの四肢は見えざれども

茫茫と麦生つづけり胸の病

死す風にひとすぢ死のにほひ

向日葵や患家の暗さ医も驚く

一湾の潮しづもるきりぎりす

吾と妻とのもの虫干の綱たるみ

病雁の列を離るるこゑなりしや

毒ありてうすばかげろふ透きとほる

秋の蚊を払ふかすかに指に触れ

道ありと思へず稲田ひと通る

海へ洩る寒燈海から誰も見ず

霧の海その中に眼に見ゆる海

枕木を枯野一駅歩み来し

雁のこゑ長き行途を思はしむ

ゆふべしづかに明日にも雪嶺たらむとす

雪嶺とはならずしづかに天を占む

わが息のかすかに白く生きるはよし

春著着て来れり海に見せむとて