和歌と俳句

山口誓子

青銅

頚出して身を出して鳩初空へ

鬣を修二会松明振りみだす

童男も男修二会に参じたり

修二会堂ひとかたまりの女人臭

修二会見る桟女人の眼女人の眼

断ち難き女人を断てり修二会の桟

修二会更けたつぷりとろり油さす

影ともに修二会の若き僧疾駆

修二会火の行木の床が鉄の床

修二会荒る水撒き火撒き塩を撒き

火が痩せて痩せて修二会の駆け廻る

春昼をはつと墨打つ鉄の板

春の暮工場浴のあと全裸

近づくにつれて塔重き春の暮

永き日を千の手載せる握る垂らす

直立塔そこに雀の親の声

の羽落ち落ちて地に達す

春潮に船路を開けて船繋る

税関の勤春潮の埠頭詰

春の潮鉄にペンキの設計図

春潮に艤装騒音もの云へず

トラックに搬ぶ耕牛脾肉揺れ

入学を待つ寝台のニス匂ひ

西方に満開だだ日洩れ

犬の眼の緑に光る桜の夜

重枝聖なる女学院のもの

禅の天藤房暗く懸りたり

棚壊えて白藤咲けり達治以後

放置さる藤の白房地に触るを

過去に触るごと白藤の房に触る

見ゆ男子禁制寮の部屋

万緑に薬石板を打ち減らす

民民と良寛の詩の鳴けり

夜涼の燈一列島も陸もなし

岬で二分け夏の海夏の海

夜長航く仰臥の下をうねり波

砂利の浜直ぐに深海秋日和

西は石見の沈痛な秋夕焼け

月の夜に開扉三処の三体仏

指さきにざらざらの香月に燻ぶ

奈良の山出ての上に来る

の幹しづやかなる負荷に堪へ

西へ行く日とは柿山にて別る

雲海のさまして白穂芒原

寒月にぢんぢんと鳴る石の庭

伊予霙海渡らねば帰られず

枯草の窪山霊の寄合ひ場