和歌と俳句

山口誓子

花蜜柑追風に香を焚き込めし

天の最中に夏山の暮れ仕度

夏山の系捻れたる裏が見え

燈の汽車が過ぎ行く伊賀の多蛾地帯

泳ぎより歩行に移るその境

峰雲も円空の彫り海に立つ

蟷螂に有無を云はさぬ頭を押さへ

残照をそつくりその儘芒の穂

雪降るな人間魚雷いまぼろぼろ

天耕の峰に達して峰を越す

瞬間に彎曲の鉄寒曝し

芭蕉忌の選して御堂筋が見ゆ

蜜柑山南へ袖を両開き

鞦韆に腰椅子もなき冬の苑

寒庭に在る石更に省くべし

日本がここに集る初詣

初凪の沖航く帆のみ檣のみ

部屋鏡輪飾の裏生写し

駅に今日始めて会うてスキー族

直立のスキーに手掛け立ち憩ふ

蝙蝠が病の暮色塗り重ね

病院にとぶ蝙蝠は誰が化身

月山の襞に残れる雪の意味

残雪が少し二丈の雪の残

硝子越し出羽の天狗蛾燈を窺ふ