憲吉
如月を奈良いにしへの御ほとけに浄き閼伽井を汲む夜にぞあふ
八一
うつろひしみだうにたちてぬばたまのいしのひとみのなにをかもみる
八一
かいだんのまひるのやみにたちつれてふるきみかどのゆめをこそまもれ
水取や僧形も見ず詣で去る 爽雨
茂吉
せまりつつ 苦しみ生きし もろもろの 救はれにける 木の仏これ
月うすき東大寺みち春の夜 蛇笏
奈良なれば大仏殿や渡り鳥 尾崎迷堂
八一
ひむがしのやまべをけづりやまをさへしぬぎてたてしこれのおほてら
八一
いくとせのひとのちからをささげこしおほきほとけはあふぐべきかな
八一
うちあふぐのきのくまわのさしひぢきまそほはだらにはるびさしたり
八一
あまぎらすみてらのいらかあさにけにをちかたびとのかすみとやみむ
八一
あささむきをかのみだうにひれふしてずずおしもむときくがかなしき
八一
みほとけのあまねきみてのひとつさへわがまくらべにたれさせたまへ
春寒の刀は鳴らさずつかがしら 楸邨
子とあふぐ雨のゆふべの盧遮那佛 草城
野の鹿も修二会の鐘の圏の中に 多佳子
修二会僧女人のわれの前通る 多佳子
つまづきて修二会の闇を手につかむ 多佳子
初蝶に合掌のみてほぐるるばかり 多佳子
お水取猫の恋愛期も過ぎて 草城
童男も男修二会に参じたり 誓子
修二会見る桟女人の眼女人の眼 誓子
火が痩せて痩せて修二会の駆け廻る 誓子
火がついて修二会松明たちまち惨 多佳子
火の修二会闇に女人を結界して 多佳子
刻みじかし走りて駆けて修二会僧 多佳子
西天に赫きオリオン修二会後夜 多佳子
寒き戒壇人が恋しくなりて降る 多佳子
女座の局に吾も修二会見る 誓子
髪を撫づ修二会香煙手に受けて 誓子
荒格子顔うつ修二会詣でけり 爽雨
水取も十日の磴に火屑つむ 爽雨
水取の炬火の上堂間をおかず 爽雨