家持
佐保山に たなびく霞 見るごとに 妹を思ひ出で 泣かぬ日はなし
家持
昔こそ 外にも見しか 我妹子が 奥城と思へば はしき佐保山
大伴坂上郎女
我が背子が 見らむ佐保道の 青柳を 手折りてだにも 見むよしもがな
家持
卯の花も いまだ咲かねば ほととぎす 佐保の山辺に 来鳴き響もす
万葉集・巻第十・作者未詳
春日なる 羽がひの山ゆ 佐保の内へ 鳴き行くなるは 誰れ呼子鳥
万葉集・巻第十・作者未詳
答へぬに な呼び響めそ 呼子鳥 佐保の山辺を 上り下りに
古今集・秋 友則
たがための 錦なればか 秋霧の 佐保の山べを たちかくすらむ
古今集・秋 よみ人しらず
秋ぎりはけさはな立ちそ 佐保山の柞のもみぢよそにても見ん
古今集・秋 是則
佐保山の 柞の色は うすけれど 秋はふかくも なりにけるかな
古今集・秋 よみ人しらず
佐保山の柞のもみぢちりぬべみよるさへ見よと てらす月かげ
後撰集・秋 よみ人しらず
天の河 かりぞとわたる 佐保山の こずゑはむべも 色づきにけり
後撰集・冬 よみ人しらず
初時雨 ふるほどもなく 佐保山の 梢あまねく うつろひにけり
信明
佐保山の ははその紅葉 散りにけり 恋ひしき人を 待つとせしまに
永縁
佐保山に 紅葉の錦 おりかけて 霧のたつにぞ まかせたりける
顕季
佐保山に 柳の糸を 染めかけて 心のままに 風ぞ吹き来る
俊頼
たれかまた あかず見るらむ 佐保山の 霞にもれて にほふ櫻を
俊頼
佐保山に 花咲きぬれば 白妙の 天の羽衣 ぬきかけて見ゆ
新古今集 俊頼
さほ山に かすみの衣 かけてけり なにをか四方の 空はきるらん
俊頼
佐保山の みねふきわたる こがらしの ゆくへもしらぬ 恋もするかな
式子内親王
佐保山の 柞の紅葉 色に出て 秋深しとや 露にもるらん
実朝
初雁の 羽風のさむく なるままに 佐保の山辺は 色づきにけり
実朝
さほ山の ははそのもみぢ 千々の色に うつろふ秋は 時雨ふりけり
新古今集・冬 よみ人しらず
神無月しぐれ降るらし佐保山のまさきのかづら色まさりゆく
佐保山の后の陵のうめもどき 播水