和歌と俳句

藤原顕季

十一

金葉集・春
うちなびき 春はきにけり 山河の 岩間の氷 けふやとくらむ

君が代を 子の日の松と けふよりは 千代のためしに ひかむとぞ思ふ

見渡せば j春のけしきに なりにけり 霞たなびく 桜井の里

金葉集・春
鶯の なくにつけてや 眞金吹く 吉備の中山 はるをしるらむ

若菜おふる 野をやしめまし 今年より 千歳の春を つまむと思へば

山里の 垣根に残る 白雪は 草のもゆるに 消えや果つらむ

梅の花 咲き過ぎて来る 春風は 誰がふるそでと 驚かれつつ

佐保山に 柳の糸を 染めかけて 心のままに 風ぞ吹き来る

むらさきの ちりうちはらひ 春の野に あさるの もの憂げにして

さくら花 匂ふにつけて ものぞおもふ 風の心の うしろめたさに

新勅撰集・春
かすみしく このめはるさめ ふるごとに はなのたもとは ほころびにけり

とりつなぐ 人やなからむ 春の野に いはゆる駒の あし毛なるかな

人ならば 訪はましものを 散りぬべき 花を見捨てて 帰る雁がね

さよなかに みみなし山の 呼子鳥 こたふる人も あらじとぞ思ふ

小山田に 種まきすてて 苗代の 水のこころに まかせつるかな

きぎすなく 山田の小野の 壺すみれ しめさすばかり なりにけるかな

千載集
きぎす鳴く 岩田の小野の つぼすみれ しめさすばかり なりにけるかな

金葉集・春
東路の かほやが沼の かきつばた 春をこめても 咲きにけるかな

住の江の 松にかかれる 藤のはな 風のたよりに 波や折りけむ

金葉集・春
住吉の 松にかかれる 藤のはな 風のたよりに 波や折るらむ

山吹の 花咲く里は 春ごとに をらまほしくも おもほゆるかな

花の散る ことを嘆くと せし程に 夏のさかひに 春はきにけり