小倉山 峰の嵐の 吹くからに となせの滝ぞ 紅葉しにける
年ひさに ゆはたのおひを とりし手で 神にぞ祀る 妹に逢はむため
春風の 吹き来るからに しきたへの 枕の上に 花の散るらむ
さくら花 匂はざりせば 何しかは 春来ることの うれしからまし
ゆふづく日 いるさの山に 時しまれ をりはへて啼く ほととぎすかな
おもひかね こひわすれ貝 拾へども 袖濡れまさる 沖つ島守
見渡せば 蘆はおしなひ しげりあひて 道たづたづし 堀江漕ぐ舟
続後撰集・夏
くるるかと 見るほどもなく 明けにけり 惜しみもあへぬ 夏の夜の月
言の葉を たのまざりせば 年経とも 人を辛しと 思はざらまし
いへに妹は くものふるまひ たのむらむ 道さまたげに 散る紅葉かな
わぎもこは きそのほきちに 住まはねど なに逢ふことの かたきしならむ
雪消えぬ 比良のたかねも 春来れば それとも見えず 霞たなびく
いかにせむ 野沢に生ふる まろすげの まろすげもなき 恋にけぬべし
夢さめて 急ぎてきつる 山桜 朝ふく風の 立たぬ先にと
時しまれ 恋ひまさりけり 入日さす 山の端人も ながめすなゆめ
卯の花の 咲くにつけてや 山里は 夏の衣を 思ひたつらむ
金葉集・夏
み山いでて まだ里なれぬ ほととぎす 旅の空なる ねをや鳴くらむ
けふことに 袂にかかる あやめ草 千代の皐月は 君がまにまに
たねまきし 早苗の稲の おひぬらむ しづ心なく 見ゆる早乙女
恋ひ死なむ ことをぞ今は 嘆かるる つひにあふみと なりもこそすれ