和歌と俳句

続後撰和歌集

正治百首歌奉りける時 源師光
みわたせば すゑせきわくる 高瀬川 ひとつになりぬ さみだれのころ

建保四年百首歌中に 僧正行意
ほしあへぬ ころもへにけり かはやしろ しのに浪こす さみだれのころ

覚盛法師
さみだれは つたの細江の みをつくし みえぬも深き しるしなりけり

皇太后宮大夫俊成
したくさは 葉末ばかりに なりにけり うきたの杜の さみだれのころ

建保二年内裏百番歌合に 参議雅経
みつしほの からかの島に 玉藻かる あままもみえぬ さみだれのころ

順徳院御製
さみだれの 雲のはれまを 待ちえても 月みる程の 夜半ぞすくなき

寛平の御時、后の宮の歌合のうた よみ人しらず
夏の夜は 水まさればや あまの川 ながるる月の 影もとどめぬ

修理大夫顕季
くるるかと みるほどもなく あけにけり をしみもあへぬ 夏の夜の月

大御門右大臣公能
夏の夜の あまのいはとは あけにけり 月の光の さすほどもなく

後京極摂政前太政大臣良経
かささぎの 雲のかけはし 程やなき 夏の夜わたる 山の端の月

正三位知家
難波なる みつともいはじ 芦の根の みじかき夜半の いざよひの月

藤原教雅朝臣
かがりさす たかせのよどの みなれ棹 とりあへぬ程に 明くる空かな

惟明親王
なつの夜は あくる程なき 槙の戸を またで水鶏の 何たたくらむ

建保五年四月庚申に、夏暁 前中納言定家
なきぬなり ゆふつげ鳥の しだり尾の おのれにも似ぬ 夜半の短さ

殷富門院大輔
いたづらに 老にけるかな あはれわが 友とはしるや 森の下草

前太政大臣実氏
露むすぶ まがきにふかき 夏草の 何ともなしに ことしげの身や

後鳥羽院御製
夏山の しげみにはへる 青つづら くるしや憂き世 わが身ひとつに

堀河院に百首歌奉りける時 權大納言師頼
草ふかみ 浅茅まじりの 沼水に 螢とびかふ 夏の夕暮

建保四年百首歌に 参議雅経
夏ふかき 沢辺にしげる かりこもの 思ひみだれて ゆく螢かな

亭子院歌合せに よみ人しらず
夏の池に よるべさだめぬ 浮草の 水よりほかに ゆくかたもなし