良経
きのふけふ千里の空も一つにて軒端にくもる五月雨のやど
良経
五月雨のふりにし里は道たえて庭の小百合も波の下草
良経
五月雨にしばの庵は傾きて軒の雫の音ぞ短き
良経
花にとひ月にたづねし跡もなし雲こすみねの五月雨の空
良経
五月雨の雲をへだてて行く月の光はもらで軒の玉水
良経
山里の卯の花くたす五月雨に垣根を越ゆる山川の水
定家
山のはに月も待ち出でぬ夜を重ねなほ雲のぼる五月雨の空
雅経
さみだれは すだくかはづの 声ながら さわぎぞまさる 井手のうきくさ
雅経
さみだれは 雲のしがらみ 越えにけり 空よりあまる 天の川水
雅経
はつせやま いりあひの鐘の 音までも うちしめりたる さみだれのころ
雅経
さみだれの 日数のほかや さを鹿の 爪だにひぢぬ 山川の水
雅経
宇治川の はやせにめぐる みづぐるま 空よりうくる さみだれのころ
俊成
みたやもり外もの池に水越えてかねて秋ある五月雨のころ
俊成
五月雨は泉の杣の民なれや宮木は水のくたすなりけり
定家
わがしめしたま江のあしのよをへてはからねど見えぬ五月雨のころ
定家
たま水の軒もしどろの菖蒲草さみだれながら明くるいくかぞ
雅経
かすみしく 朧月夜と 見しものを へだてはてつる さみだれの空
雅経
ながめやる 生駒の山の みねの雲 いくへになりぬ さみだれの空
雅経
さみだれは もとの汀も 水こえて 波にぞさわぐ 井手のうきくさ
雅経
さみだれの ころともいはじ いつとても 雲は軒端の やまかげのいほ
雅経
わが袖に むかしはとはむ たちばなの 花散る里の さみだれの空
俊成
五月雨は沼のうきくさ岩こえてかはづのとこもねや絶えぬらむ
俊成
五月雨は須磨のしほやも空とぢて煙ばかりぞ雲に添ひける
良経
軒ちかきまきのこずゑにゐるくもの重なるまゝに五月雨の空
良経
うちしめりあやめぞかほるほとゝきす鳴くやさ月の雨の夕暮
良経
空は雲庭はなみこす五月雨にながめもたえぬ人もかよはず
定家
峯つづき雲のただちに窓とぢてとはれむものか五月雨の空
定家
いたづらにくもゐる山のまつのはの時ぞともなき五月雨のそら
定家
宿からや鳴く一声のほととぎす寝ぬにはかなき夜半の五月雨
定家
ぬきもあへずこぼるる玉のをはたへぬ五月雨そむる軒の菖蒲に
定家
五月雨の日かずも雲もかさなれば見らく少きよものやまのは
定家
五月雨のくものまぎれに中たえてつづきも見えぬ山のかけ橋
定家
玉鉾やかよふただちも川と見て渡らぬなかのさみだれのころ
続後撰集 權大納言忠信
かきくらす うき身もおなじ ほととぎす ながなく里の さみだれのころ
続後撰集 従二位家隆
いくとせか なきふるしてし ほととぎす かみなび山の さみだれの空
続後撰集 前大納言隆房
さみだれは あさ沢をのの 名のみして 深くなりゆく 忘れ水かな
続後撰集 大宰大弐重家
さみだれの 日数まされば あすか川 さながら淵に なりにけるかな
続後撰集 前大納言為家
あまの川 とほきわたりに なりにけり かた野のみ野の さみだれのころ
続後撰集 源師光
みわたせば すゑせきわくる 高瀬川 ひとつになりぬ さみだれのころ
続後撰集 僧正行意
ほしあへぬ ころもへにけり かはやしろ しのに浪こす さみだれのころ
続後撰集 覚盛法師
さみだれは つたの細江の みをつくし みえぬも深き しるしなりけり
続後撰集 俊成
したくさは 葉末ばかりに なりにけり うきたの杜の さみだれのころ