和歌と俳句

藤原良経

治承題百首

五月雨は雲と波とを軒端にて烟もたてぬ須磨の浦人

五月雨のふりにし里は道たえて庭の小百合も波の下草

五月雨にしばの庵は傾きて軒の雫の音ぞ短き

花にとひ月にたづねし跡もなし雲こすみねの五月雨の空

五月雨の雲をへだてて行く月の光はもらで軒の玉水

秋風に木の間の月は洩りそめて光をむすぶ袖の白玉

うす霧の麓にしづむ山の端に一人はなれて上る月影

清美潟なみのちさとに雲きえて岩しく袖に寄する月影

山ふかみ苔のむしろに旅寝して霜にさえたる月を見るかな

槙の戸の鎖さで有明になりゆくを幾夜の月と問ふ人もなし

荻原や末こす風の穂にいでて下露よりも忍びかねける

風はらふ鶉の床の露のうへに枕ならぶる女郎花かな

しげき野となりゆく庭の萱がしたにおのれ乱るる蟲のこゑごゑ

眞野のうらの 入江は霧の うちにして 尾花がすゑに 残る白波

とけて寝ぬ鹿のねちかし小萩原つゆふきむすぶみやまおろしに

たつたひめ幾重の山を行き廻り松のほかをば染めわたすらむ

時雨つる外山の雲は晴れにけり夕日に染むる峰のもみぢ葉

秋風の立田山より流れきて紅葉の川を暮るる白波

山人の木の下みちは絶えぬらむ軒端のまさき紅葉ちるなり

朽ちにけり森のおちばに霜きえて変はりし色のまた変はりぬる