五月雨のふりにし里は道たえて庭の小百合も波の下草
五月雨にしばの庵は傾きて軒の雫の音ぞ短き
花にとひ月にたづねし跡もなし雲こすみねの五月雨の空
五月雨の雲をへだてて行く月の光はもらで軒の玉水
秋風に木の間の月は洩りそめて光をむすぶ袖の白玉
うす霧の麓にしづむ山の端に一人はなれて上る月影
清美潟なみのちさとに雲きえて岩しく袖に寄する月影
山ふかみ苔のむしろに旅寝して霜にさえたる月を見るかな
槙の戸の鎖さで有明になりゆくを幾夜の月と問ふ人もなし
荻原や末こす風の穂にいでて下露よりも忍びかねける
風はらふ鶉の床の露のうへに枕ならぶる女郎花かな
しげき野となりゆく庭の萱がしたにおのれ乱るる蟲のこゑごゑ
眞野のうらの 入江は霧の うちにして 尾花がすゑに 残る白波
とけて寝ぬ鹿のねちかし小萩原つゆふきむすぶみやまおろしに
たつたひめ幾重の山を行き廻り松のほかをば染めわたすらむ
時雨つる外山の雲は晴れにけり夕日に染むる峰のもみぢ葉
秋風の立田山より流れきて紅葉の川を暮るる白波
山人の木の下みちは絶えぬらむ軒端のまさき紅葉ちるなり
朽ちにけり森のおちばに霜きえて変はりし色のまた変はりぬる