和歌と俳句

藤原良経

年へたる 檜原のそまの さびしきに たつきのおとの ほのかなるかな

思ふべし たきぎのうへに もゆる火は 世のことわりを あかすなりけり

おしなべて 天のしたなる ものはみな 土をもととて ありとこそきけ

こむ世まで ながきたからと なるものは 仏とみがく 黄金なりけり

清く澄む 水のこころの むなしきに さればとやどる 月の影かな

月も日も まづ出でそむる 方なれば あさゆふ人の うちながめつつ

秋風も 入日の空も 鐘の音も あはれは西に かぎるなりけり

たまづさを 待つらむ里の 秋風に はるかにむかふ 初雁のこゑ

そなたしも 冬のけしきの はげしとや 閉じたる戸をも 叩く風かな

むかしより みやこしめたる この里は ただわが国の もなかなりけり

波あらふ いはねの苔の 色までも 松のこかげを うつすなりけり

秋のひの 光のまへに 咲く菊の 枯野の色に まがひぬるかな

あかねさす 峰の入日の 影そへて 血汐そめたる 岩躑躅かな

霜うづむ 賀茂のかはらに なく千鳥 氷にやどる 月や寒けき

雲ふかき みやまの里の 夕闇に ねぐらもとむる からす鳴くなり

横雲の 消えにし空に おもふかな さとりはれにし 月の光を

入相の 鐘の音こそ たぐふなれ これとて法の こゑならぬかは

ふけぬれば 露とともにや やどらまし いはやの洞の 苔の莚に

惜しきかな 入り方ちかき あかつきの まだ闇ふかき このよと思へば

ひとりさは みやまの春に くらせとや けふまで人の 訪はぬ桜を

やまかげや 軒端の苔の 下くちて 瓦の上に 松ぞかたぶく

山里に 枯れにし草は 春の夢 ひとよに秋の 風ぞおどろく

月みばと いひしばかりの 人はこず よもぎが上に 露しげきには

世のうさの ねをやたえなむ 山川の うれしく水の さそふ浮草

しをりせで いりにし山の かひぞなき たえずみやこに 通ふ心は

かりそめの うきよ出でたる 草のいほに のこる心は ふるさとの夢

み吉野も 春のひとめは かれなくに 花なき谷の 奥をたづねむ

ふもとまで おなじささはら 跡もなし みやまのいほの 露のしたみち

いかばかり 夢のよあだに 思ふらむ みやまのいほの よはのあらしに

まつ人の なきにかかれる わが身かな ものおもふ秋の 入相の空

滝のおと 松のひびきの さびしきに つれなくあかす 岩枕かな

ひとりこそ 思ひ入りにし 奥山に 鹿もなくなり 峰の松風

あしひきの 山かげならす ゆふまぐれ このは色づく ひぐらしのこゑ

をはりおもふ すまひかなしき 山かげに たまゆらかかる あさがほの露