和歌と俳句

藤原良経

治承題百首

いでしよりあれまく思ふふるさとに閨もる月を誰とみるらむ

三島江に一夜かりしく乱れ葦の露もや今朝は思ひ置くらむ

浦つたふ袖にふきこす潮風の馴れてとまらぬ波枕かな

明け方の小夜の中山つゆおちて枕のにしに月を見るかな

宮城野の木のしたくさに宿かりて鹿なく床に秋風ぞ吹く

世の中は腐りはてぬといふことやたまたま人のまことなるらむ

たれもみな植ゑてだにみよ忘れ草よにふるさとはげにぞ住み憂き

埋もれぬ後の名さへやとめざらむ為すことなくてこの世くれなば

うきよかなひとり岩屋の奥にすむ苔の袂も猶しをるなり

いかばかり覚めておもはば憂かりなむ夢のまよひに猶まよひぬる

新勅撰集・神祇
鈴鹿川やそせしらなみ分け過ぎて神路の山の春を見しかな

濁る世もなほ澄めとてや石清水ながれに月の光とむらむ

かも山の麓の柴のうすみどり心の色も神さびにけり

新勅撰集・神祇
かすがやま森のしたみち踏み分けていくたび馴れぬさを鹿のこゑ

藻鹽草はかなくすさぶ和歌の浦にあはれをかけよ住吉の神

うらむなよ月と花とをながめても惜しむ心は思ひ捨ててき

この法はうけて保てる玉なれば長き世てらす宝なりけり

胸の火も涙の露も今はただ洩らさでしたに思ひけちつつ

朝夕に三世の佛に仕ふれば心をあらふ山川の水

心をば心の底にをさめおきて塵もうごかぬ床のうへかな