いでしよりあれまく思ふふるさとに閨もる月を誰とみるらむ
三島江に一夜かりしく乱れ葦の露もや今朝は思ひ置くらむ
浦つたふ袖にふきこす潮風の馴れてとまらぬ波枕かな
明け方の小夜の中山つゆおちて枕のにしに月を見るかな
宮城野の木のしたくさに宿かりて鹿なく床に秋風ぞ吹く
世の中は腐りはてぬといふことやたまたま人のまことなるらむ
たれもみな植ゑてだにみよ忘れ草よにふるさとはげにぞ住み憂き
埋もれぬ後の名さへやとめざらむ為すことなくてこの世くれなば
うきよかなひとり岩屋の奥にすむ苔の袂も猶しをるなり
いかばかり覚めておもはば憂かりなむ夢のまよひに猶まよひぬる
新勅撰集・神祇
鈴鹿川やそせしらなみ分け過ぎて神路の山の春を見しかな
濁る世もなほ澄めとてや石清水ながれに月の光とむらむ
かも山の麓の柴のうすみどり心の色も神さびにけり
新勅撰集・神祇
かすがやま森のしたみち踏み分けていくたび馴れぬさを鹿のこゑ
藻鹽草はかなくすさぶ和歌の浦にあはれをかけよ住吉の神
うらむなよ月と花とをながめても惜しむ心は思ひ捨ててき
この法はうけて保てる玉なれば長き世てらす宝なりけり
胸の火も涙の露も今はただ洩らさでしたに思ひけちつつ
朝夕に三世の佛に仕ふれば心をあらふ山川の水
心をば心の底にをさめおきて塵もうごかぬ床のうへかな