万葉集 額田王
味酒 三輪の山 あおによし 奈良の山の
山の際に い隠るまで 道の隈 い積もるまでに
つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放けむ山を
心なく 雲の 隠さふべしや
額田王
三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや
高市皇子
三輪山の山辺真麻木綿短木綿かくのみゆゑに長くと思ひき
丹波大女娘子
味酒を三輪のはふりがいはふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき
作者不詳
みもろつく三輪山見ればこもりくの泊瀬の檜原思ほゆるかも
人麻呂歌集
いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の檜原にかざし折りけむ
長屋王
味酒三輪の社の山照らす秋の黄葉の散らまく惜しも
人麻呂歌集
春山は散り過ぎぬとも三輪山はいまだふふめり君待ちかてに
人麻呂歌集
神なびの神依せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに
人麻呂
三輪山の山下響み行く水の水脈し絶えず後も我が妻
古今集・雑歌 よみ人しらず
わが庵は三輪の山もと 恋しくはとぶらいきませ 杉立てるかど
貫之
みわ山をしかもかくすか春霞人に知られぬ花やさくらむ
貫之
いづれをか しるしと思はむ 三輪の山 みえとみゆるは すぎにざりける
貫之
いづれをか しるしと思はむ 三輪の山 有としあるは 杉にぞありける
貫之
いにしへの ことならずして 三輪の山 越ゆるしるしは 杉にぞありける
敦忠
三輪の山 かひなかりけり わがかどの 入江の松は きりやしてまし
敦忠
植ゑおきし 三輪のやまもり ゆるさずは おひ茂るとも 誰かきるべき
拾遺集・雑 元輔
三輪の山しるしの杉は有ながら教へし人はなくて幾世ぞ
後拾遺集・恋 皇太后宮陸奥
逢ふことを今はかぎりと三輪の山杉の過ぎにし方ぞこひしき
後拾遺集・恋 よみ人しらず
杉村といひてしるしもなかりけり人のたづねぬ三輪の山もと
千載集・春 藤原頼輔
春くれば杉のしるしも見えぬかな霞ぞ立てる三輪の山もと
千載集・春 藤原隆房
見わたせばそことしるしの杉もなし霞のうちや三輪の山もと
俊頼
三輪の山すぎまをわけてたづぬれば花こそ春はしるしなりけれ
俊頼
三輪の山杉のしをりをしるべにてたづきもしらぬかげぢをぞゆく
俊頼
あたりをば なほほのめかせ 神垣や 三輪のしるしは 絶えもこそすれ
兼昌
つがねつつ たてならべたる あし夜座は 三輪の社の しるしなるらむ
清輔
かざしをる 三輪の檜原の 木の間より ひれふる花や 神のやをとめ
俊恵
三輪の山 杉のまにまに もる月は みだれて散れる 幣かとぞみる
俊成
思ふこと三輪の社に祈りみむ杉はたづぬるしるしのみかは
寂蓮
三輪の山 あはれいくよに なりぬらむ すぎのこずゑに やどをまかせて
慈円
心こそゆくへも知らぬ三輪の山杉のこずゑのゆふぐれの空
新古今集・雑歌 殷富門院大輔
かざしをる三輪のしげ山かきわけて哀れとぞ思ふ杉立てる門
定家
三輪の山かすみを春のしるしとてそことも見えぬ杉のむら立
定家
いかならむみわの山もと年ふりてすぎゆく秋のくれがたのそら
定家
いつかこの月日をすぎのしるしとてわがまつ人をみわの山もと
定家
夕立の杉のしたかげ風そよぎ夏をばよそにみわの山もと
慈円
いかでわが いのるしるしを あらはさむ 三輪の社の 杉のこずゑに
雅経
たづねくる 人は音せで 三輪の山 杉のこずゑの 雪のしたをれ
雅経
たづねても たれかはとはむ 三輪の山 きりのまがきに すぎたてるかと
雅経
いづれとか こずゑばかりを みわのやま かすみにまがふ ひばらすぎはら
定家
けふこずは三輪の檜原のほととぎすゆくての声をたれかきかまし
定家
たづぬれば思ひしみわの山ぞかしわすれねもとのつらき面影
実朝
冬ごもりそれとも見えず三輪の山杉の葉白く雪の降れれば
実朝
いまつくる三輪のはふりが杉社すぎにしことはとはずともよし
定家
三輪の山五月の空のひまなきにひばらの声そあめをそふなる
続後撰集・秋 藻壁門院少将
とふ人も あらじと思ふを みわの山 いかにすむらむ 秋の夜の月
続後撰集・冬 藤原信実朝臣
下折れの おとのみ杉の しるしにて 雪の底なる 三輪の山本
続後撰集・冬 中納言資季
ちはやふる 三輪の神杉 いまさらに 雪ふみわけて 誰かとふべき
木兎の昼は見えずよ三輪の森 白雄
節
櫛御玉大物主の知らしめす三輸の檜原は荒れにけるかも
八一
耳しふとぬかづくひとも三輪やまのこのあきかぜをきかざらめやも
三輪山を隠さうべしや畦を焼く 青畝
迢空
三輪の山 山なみ見れば、若かりし旅の思ひの はるかなりけり
味酒を月の幸とし仰ぎ酌む 青畝