和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

前のページ< >次のページ

山上もしくは、 川嶋皇子
白那弥乃濱松之木乃手酬草幾世左右ニ箇年薄経監

白波の浜松の木の手向けくさ幾代までにか年は経ぬらむ

春日
三川之淵瀬物不落左提刺尓衣手潮干兒波無尓

三川の淵瀬もおちず小網さすに衣手濡れぬ干す子はなしに

高市
足利思代榜行舟薄高嶋之足速之水門尓極尓監鴨

率ひて漕ぎ去にし舟は高島の安曇の港に泊てにけむかも

春日蔵
照月遠雲莫隠嶋陰尓吾船将極留不知毛

照る月を雲な隠しそ島蔭に我が舟泊てむ泊り知らずも

元仁
馬屯而打集越来今日見鶴芳野之川乎何時将顧

馬並めてうち群れ声来今日見つる吉野の川をいつかへり見む

元仁
辛苦晩去日鴨吉野川清河原乎雖見不飽君

苦しくも暮れゆく日かも吉野川清き川原を見れど飽かなくに

元仁
吉野川河浪高見多寸能浦乎不視歟成甞戀布真國

吉野川川波高み滝の浦を見ずかなりなむ恋しけまくに


河蝦鳴六田乃河之川楊乃根毛居侶雖見不飽河鴨

かはづ鳴く六田の川の川楊のねもころ見れど飽かぬ君かも

嶋足
欲見来之久毛知久吉野川音清左見二友敷

見まく欲り来しくもしるく吉野川音のさやけさ見にともしく

麻呂
古之賢人之遊兼吉野川原雖見不飽鴨

いにしへの賢しき人の遊びけむ吉野の川原見れど飽かぬかも


神南備神依板尓為杉乃念母不過戀之茂尓

神なびの神依せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに

垂乳根乃母之命乃言尓有者年緒長憑過武也

たらちねの母の命の言あらば年の緒長く頼め過ぎむや

泊瀬河夕渡来而我妹兒何家門近春二家里

泊瀬川夕渡り来て吾妹子が家のかな門に近づきにけり