和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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巨椋乃入江響奈理射目人乃伏見何田井尓鴈渡良之

巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田居に渡るらし

金風山吹瀬乃響苗天雲翔鴈相鴨

秋風に山吹の瀬の鳴るなへに天雲翔る雁に逢へるかも

佐宵中等夜者深去良斯鴈音所聞空月渡見

さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空を月渡る見ゆ

妹當茂苅音夕霧来鳴而過去及乏

妹があたり繁き雁が音夕霧に来鳴きて過ぎぬすべなきまでに

雲隠鴈鳴時秋山黄葉片待時者雖過

雲隠り雁鳴く時は秋山の黄葉片待つ時は過ぐとも

■手折多武山霧茂鴨細川瀬波驟祁留

ふさ手折り多武の山霧繁みかも細川の瀬に波の騒げる

冬木成春部戀而殖木實成時片待吾等叙

冬ごもり春へを恋ひて植ゑし木の実のなる時を片待つ我れぞ

山代久世乃鷺坂自神代春者張乍秋者散来

山背の久世の鷺坂神代より春は萌りつつ秋は散りけり

春草馬咋山自越来奈流鴈使者宿過奈利

春草を馬咋山ゆ越え来なるの使は宿り過ぐなり

御食向南淵山之巌者落波太列可削遺有

御食向ふ南淵山の巌には降りしはだれか消え残りたる

天原雲無夕尓烏玉乃宵度月乃入巻■毛

天の原雪なき宵にぬばたまの夜渡るの入らまく惜しも 作者未詳

瀧上乃三船山従秋津邊来鳴度者誰喚兒鳥

滝の上の三船の山ゆ秋津辺に来鳴き渡るは誰れ呼子鳥 作者未詳

落多藝知流水之磐觸与杼賣類与杼尓月影所見

落ちたぎち流るる水の岩に触れ淀める淀に月の影見ゆ 作者未詳

楽浪之平山風之海吹者釣為海人之袂■所見

楽浪の比良山風の海吹けば釣りする海人の袖返る見ゆ 槐本