雪己曽浪春日消良来心佐閇消失多列夜言母不往来
雪こそば春日消ゆらめ心さへ消え失せたれや言も通はぬ 妻に与ふる歌
松反四臂而有八羽三栗中上不来麻呂等言八子
松反りしひてあれやは三栗の中上り来ぬ麻呂といふ奴 妻が和ふる歌一首
妹等許今木乃嶺茂立嬬待木者古人見祁牟
妹らがり今木の嶺に茂り立つ夫松の木は古人見けむ
黄葉之過去子等携遊磯麻見者悲裳
黄葉の過ぎにし子らとたづさはり遊びし磯を見れば悲しも
塩氣立荒磯丹者雖在往水之過去妹之方見等曽来
潮気立つ荒磯にはあれど行く水の過ぎにし妹が形見とぞ来し
古家丹妹等吾見黒玉之久漏牛方乎見佐府下
いにしへに妹と我が見しぬばたまの黒牛潟を見れば寂しも
玉津嶋磯之裏未之真名子仁文尓保比尓去名妹触険
玉津島磯の浦廻の真砂にもにほひて行かな妹も触れけむ
久方之天芳山此夕霞霏■春立下
巻向之檜原丹立流春霞欝之思者名積米八方
古人之殖兼杉枝霞霏■春者来良之
いにしへの人の植ゑけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし
子等我手乎巻向山丹春去者木葉凌而霞霏■
玉蜻夕去来者佐豆人之弓月我高荷霞霏■
今朝去而明日者来年牟等云子鹿丹旦妻山丹霞霏■
今朝行きて明日には来ねと言ひし子が朝妻山に霞たなびく
子等名丹關之宜朝妻之片山木之尓霞多奈引
子らが名に懸けのよろしき朝妻の片山崖に霞たなびく