和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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雪己曽浪春日消良来心佐閇消失多列夜言母不往来

雪こそば春日消ゆらめ心さへ消え失せたれや言も通はぬ 妻に与ふる歌

松反四臂而有八羽三栗中上不来麻呂等言八子

松反りしひてあれやは三栗の中上り来ぬ麻呂といふ奴 妻が和ふる歌一首


妹等許今木乃嶺茂立嬬待木者古人見祁牟

妹らがり今木の嶺に茂り立つ夫松の木は古人見けむ

黄葉之過去子等携遊磯麻見者悲裳

黄葉の過ぎにし子らとたづさはり遊びし磯を見れば悲しも

塩氣立荒磯丹者雖在往水之過去妹之方見等曽来

潮気立つ荒磯にはあれど行く水の過ぎにし妹が形見とぞ来し

古家丹妹等吾見黒玉之久漏牛方乎見佐府下

いにしへに妹と我が見しぬばたまの黒牛潟を見れば寂しも

玉津嶋磯之裏未之真名子仁文尓保比尓去名妹触険

玉津島磯の浦廻の真砂にもにほひて行かな妹も触れけむ


久方之天芳山此夕霞霏■春立下

ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも

巻向之檜原丹立流春霞欝之思者名積米八方

巻向の檜原に立てる春霞おほに思はばなづみ来るめやも

古人之殖兼杉枝霞霏■春者来良之

いにしへの人の植ゑけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし

子等我手乎巻向山丹春去者木葉凌而霞霏■

子らが手を巻向山に春されば木の葉しのぎてたなびく

玉蜻夕去来者佐豆人之弓月我高荷霞霏■

玉かぎる夕さり来ればさつ人の弓月が岳霞たなびく

今朝去而明日者来年牟等云子鹿丹旦妻山丹霞霏■

今朝行きて明日には来ねと言ひし子が朝妻山にたなびく

子等名丹關之宜朝妻之片山木之尓霞多奈引

子らが名に懸けのよろしき朝妻の片山崖にたなびく