なさけあらむ 人にみせばや 梅の花 をりをりかをる 春のあけぼの
あしがきの おくゆかしくも 見ゆるかな 誰が住むやどの 梅のたち枝ぞ
香にぞ知る 雪の下より 咲きそめて 霞のうちに 匂ふ梅が枝
うらうへに 身にぞしみぬる 梅の花 匂ひは袖に 色は心に
梅の花 枯れぬる枝と おもひしを あまねく芽ぐむ 春もありけり
梅の花 匂ひも雪に 埋もれば いかにわきてか 今朝は折らまし
きみ見ずば かひなからまし 梅の花 匂ひは雪に 埋もれずとも
わがかどの いつもと柳 いかにして やどによそなる 春を知るらむ
わぎもこが 裾野になびく 玉柳 うちたれ髪の ここちこそすれ
猿沢の 池になみよる 青柳は 玉藻かづきし あさね髪かも
をとめごの 袖ふるやまを 来てみれば 花のたもとも ほころびにけり
おもひねの 心やゆきて たづぬらむ 夢にも見つる 山ざくらかな
見るたびに 去年に今年は 咲きまさる 若木の花の すゑぞゆかしき
をはつせの 花のさかりや みなの川 峰よりおつる 水のしらなみ
おいらくは 心の色や まさるらむ 年にそへても あかぬ花かな
からくにの 虎ふす野辺に 匂ふとも 花の下には ねてもかへらむ
千載集・春
神垣の みむろの山は 春きてぞ 花のしらゆふ かけて見えける
続後撰集・雑歌
をしむ身ぞ けふともしらぬ あだにみる 花はいづれの 春もたえせじ
かざしをる 三輪の檜原の 木の間より ひれふる花や 神のやをとめ
よもやまの 花まつ程の 白雲は そそやそれとぞ おどろかれける