和歌と俳句

大野林火

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旅人の墓も洗はれが来る

夜を讃ふ声いただきに月の山

浄瑠璃の声割れてゆく無月かな

人形に泣き足り帰る良夜かな

今生と思へぬ声に雁渡る

かたはらに生簀の騒ぐ観月会

紅葉の賀われがさきがけ泣き出せり

蘆原に絮のあがるは蘆を刈る

や一山を占む竹の総

みどりごのまろき欠伸も良夜かな

ずんだ餅あはきあをさの無月かな

蕎麦刈つて山畑に行く日も終る

曼珠沙華あたりに他の花寄せず

秋雨や朝夕だけの人通り

新藁の円座に月の客となる

奈良線の右も左も芋嵐

大佛に道の辺の佛にも

月上げてうまざけ三輪の山円か

食うて残る齢は数へざる

盆すぎの夜陰を統ぶるみづたまり

新豆腐一切れに足る餉なりけり

夕べ佛壇の灯に賑へる

先師の萩盛りの頃やわが死ぬ日

残る露残る露西へいざなへり

明り師のふところにゐるごとし