和歌と俳句

秋の雨

公園に遊ぶ人なし秋の雨 風生

秋雨やクッションを抱いて長椅子に 青邨

工場のいつもこの音秋の雨 汀女

泣き声のまだ赤ん坊や秋の雨 汀女

秋雨の音たかぶりつ古畳 草城

秋雨や馬が顔出す樺林 立子

秋雨や癒ゆべくもなき旅づかれ 立子

ときどきの鶏の羽音や秋の雨 立子

秋雨の社前の土のよくすべる 虚子

何だか腹の立つ秋雨のふる山頭火

秋雨の一人で踊る 山頭火

秋雨の池の面ばかり騒がしや 立子

十字街はバスが人間がさんさんな秋雨 山頭火

秋雨の夜がふける犬に話しかける 山頭火

サイレン鳴れば犬がほえる秋雨 山頭火

降り出でて本土かくしぬ秋の雨 野風呂

縫ひかけて絲買ひに行く秋の雨 淡路女

秋雨や那智参道は昼灯 淡路女

秋雨のバス待てば疾く暮れにけり 

傘売のぬれてゐるなり秋の雨 万太郎

秋雨をさびしと雲や榛名富士 汀女

傘さして母やおくれて秋の雨 汀女

秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな 汀女

前の人桐の駒下駄秋の雨 立子

秋雨や線路の多き駅につく 草田男

秋雨の町に家鴨を追い出せる 汀女

一列に秋雨家鴨路地に入る 汀女

秋雨の汽車に乗らんとして濡るる 汀女

珈琲の香にあふ舗道秋の雨 桃史

蹤いてくる跫音それぬ秋の雨 桃史