和歌と俳句

鈴鹿野風呂

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黒鯛釣に港湾の潮碧なす

碇泊の暁凪に黒鯛を釣る

帝しのぶ同じ思ひにの旅

鮑つき浪にもまれてあやまたず

鵜よごれの島をめぐりて鮑つく

只一つ鵜の守るのみの沖の石

がちやがちやの島の白夜を鳴きしきる

まどかなる月になりゆく隠岐の旅

降り出でて本土かくしぬ秋の雨

秋山に放牧の柵高く高く

大露や馬の仔飛んで干草原

月落ちてあやに昏しや隠岐の島

秋蝉にまひるの風もみづみづし

西瓜種子日本海にほり語る

船虫を驚かす浪あるばかり

櫨紅葉伊賀路に入つて殊に著し

眼ほそめて日ざせる紅葉打仰ぎ

大巌を這へるもの皆紅葉せり

籾すり機高鳴る家の重なれる

山茶屋に売る榧の実と柿すこし

さるぐみをとる日曜の童たち

簾かく辺波に鰤場遠からず

鰤敷や隣鰤場も指呼の中

鰤敷にまとひ居る藻もか黒なる

紀の海の残り蜜柑にぎら凪げる

汐ぬくき紀路しかすがに梅蕾

熊野路の埃によごれ藪柑子

大漁の鰤物語宿の冬

海鼠舟ふくるゝ潮にさからはず

海鼠舟波にもまれて幾世経し

志摩の山丘となりゆき芽麦のぶ

海老網を干す道せばに手毬つく

輪飾や蜑のいつける巌祠

蜑の家は砦構へに鰯干す

燈台にふらふら揚る凧のあり

鴨群るゝ中を舟路のある如し

紀の浦は沖浪たつも凧日和

牟婁の子は藻屑に坐して凧揚ぐる

の間に殿造りして毛利邸

一羽ゐて花ちらす鳥かくれなし

山寺に弁当とゞきぬさくら狩

錦帯の橋の擬宝珠にのかげ

咲きみちて散りやまぬ花風にあり

の下柴舟すぐることはやし

広島は花ちる頃を白魚飯

岩惣の塗脇息に花疲れ

清滝の川ほそりつゝ山さくら

花人にたちつけはきし案内者

大桜しばらくの間も散りやまず

花冷をしかと覚えて碧巌堂

仰ぎ見る大日滝は濡れ光り

十薬を浸す流が滝となる

山深み拾ふ病葉手にはせる

南風やのりこぼれ出る海女小舟

をしげなく海女の呉れたる焼鮑

鮑桶海女のたつきの何もかも

浜木綿や暁よりたてる雲の峰