和歌と俳句

鈴鹿野風呂

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麦の芽に海の日照らふ丘畑

一月の汐鳴りさすが鞆の浦

寒鳶や鞆の早汐搏ちうてる

土芳忌や伊賀の底冷えかこちつゝ

土器にたまる霰や土芳の忌

枯芝に居て常春や舞子浜

ある時の東風波かぶり海苔をとる

不老橋ぬらし憩ひの海苔の籠

漕ぎゆくや流るゝ海苔の棹がかり

尚展く梅の谿あり丘の道

丘の上に又丘見ゆる梅林

春蜜柑吸ひつゝめぐる道成寺

月ヶ瀬や次の茶屋へも梅の径

梅寒し夕とゞろきの月瀬川

月ヶ瀬は梅のにほひに朝戸繰る

播磨路の松並木よりたつ雲雀

園深く深くめぐりて余花にあふ

夏もはや葉広柏のかげつくる

ぼうたんに五月の真日の照り映ゆる

牛久沼の風荒き日もやまめつり

葭切に大芦原の目路はるか

しかすがに梅雨の夕映え行々子

浜木綿にかゞめば海のかくれもす

浜木綿を日々見る海女もよしといふ

荒布塚たてり浜木綿群落す

浜木綿にやさしきことを海女はいふ

六甲の山肌さらに出水跡

緑蔭に出雲訛も親しかり

緑蔭にまどろむ兵の皆仏

宍道湖に動くものなし盆の月

夏の蝶大杉谿を逆落し

岩魚売浮世の秤手にはせる

額の花深山の秋に化けつゞく

宿坊や楡の木の間に高嶺月

大山の暁月夜ほととぎす

登山道次第ほそりに暁けそむる

御船つき場永久に洗へる秋の波

雨の日の鵜舟の屯ろ宿の下

飛騨山を雷轟きに指させる

一茶さんの俤戸主にひさご棚

ゆで豆に唐もろこしにもてなされ

秋の雲焼ヶ岳噴煙にすはれゆく

九月はや紅葉を流す梓川

飛騨山の霊につかれて岩魚つる

道草も葛這ひかゝり鈴鹿越

風冷えて鈴鹿関址はぎすの叢

徳川の世は遠く去りちゝろ虫

吹き上ぐる霧に朴の葉鳴りつゞけ

吹きまかれ吹きまく霧や鈴鹿山

月出んとする旗雲のかゞやけり

名月に坂下の灯のありはあり

潮来宿尾花なみよる朝嵐

裏川の真菰に田舟つなぎあり

稲舟の棹さしつらね十二橋

稲舟や夫婦の棹のよく揃ふ

北浦や野分に真菰吹かれ立ち

蜜柑山なだらに蜜柑長者邸

蜜柑荷を出すや汽車積汽船積

満山の蜜柑に夕日うこん照り