和歌と俳句

秋の雨

秋雨やいづれを行くも温泉の道 普羅

四万川の瀬鳴り押し来る秋の雨 普羅

たのめ来し折田泊りや秋の雨 普羅

八一
うつりきてうたたわびしきくさのとにけさをながるるあきさめのをと

羽織借りてすぐにあたたか秋の雨 汀女

笊の魚まだ生きてをり秋の雨 占魚

秋雨に家をさがしに来て泊る 占魚

秋雨のつめたきことのこころよさ 風生

蕎麦よりも湯葉の香のまづ秋の雨 万太郎

我が降ると言へば降り出す秋の雨 耕衣

秋雨の雨滴れ近くピアノ鳴り 汀女

秋の雨しづかに午前終りけり 草城

秋霖や家の鱗の黒瓦 草城

やまざとの瀬にそふ旅路秋の雨 蛇笏

秋雨に濡るる海原みつつ濡る 鷹女

秋雨にうつむきし馬しづくする 三鬼

秋雨の今日も汐木を拾ひ居り 虚子

秋雨や庭の帚目尚存す 虚子

棗はや痣をおきそめ秋の雨 風生

三日降れば世を距つなり秋の雨 秋櫻子

一山の清浄即美秋の雨 風生

つり橋にかゝりて強し秋の雨 万太郎

秋の雨直下はるかの海濡らす 三鬼

秋雨の御堂を開き厨子をあけ たかし

遠ざかりをる人疎し秋の雨 虚子

秋雨や河はしづかに荒るる海 秋櫻子

秋雨のけふの暗さに寄贈の書 たかし

軒の巣に蜂と蜂の子秋の雨 爽雨

象潟の昼うすくらき秋の雨 蛇笏

登呂人の水田あふるる秋の雨 秋櫻子

太郎に血売りし君達秋の雨 三鬼

大鉄塔の秋雨しずく首を打つ 三鬼

秋雨や空杯の空溢れ溢れ 耕衣

掌に溢れ顕つ秋雨の苦痛かな 耕衣

濡るるもの皆黒くして秋の雨 林火

秋雨に松美しき別墅かな 立子

鬼蓮は破れも見せず秋の雨 青畝

腹へらすことにも温泉浴み秋の雨 爽雨

着ずなりし甚平二枚秋の雨 爽雨

かさねつつ浴泉ひとり秋の雨 爽雨

虚子も亡くいくさも遠し秋の雨 風生

秋雨や朝夕だけの人通り 林火

秋の雨いよいよ森を夜に誘ふ みどり女